日時:2017 年 3 月 18 日(土) 1:30~4:00
場所:ガレリアかめおか 3階第 4会議室
〒621-0806 京都府亀岡市余部町宝久保1−1
Tel 0771-29-2700
タイトル:
19世紀後半、アメリカの開拓地カンザスへの移民の生活文化とファッション観
19世紀後半のアメリカでは、1862年に制定されたホームステッド法により、アメリカ東部から西部に移住する西漸運動が盛んに行われた。そして、移住した家族たちは土地を得るために開拓し、農地を築いていった。
ローラ・インガルス・ワイルダー(Laura Ingalls Wilder, 1867-1957)が、その少女時代の記憶をたどりつつ描いた一連の9冊の著作の第2冊目が『大草原の小さな家』(原題:Little House on the Prairie)である。近年(1974-1982年)、アメリカのNBCが、この9冊の連作の内容をもとにして脚色を加えてテレビドラマを制作したが、これが『大草原の小さな家』というタイトルでNHKで放送されてわが国でも人気を呼んだ。いくつかの翻訳書も刊行されている(たとえば恩地三保子氏、福音館書店ほか)。
さて、原著の第2冊目『大草原の小さな家』で描かれているのは、ローラの6歳から7歳までの1年間の生活である。自然豊かな土地での暮らしを理想とする父さんは、広々とした大草原が広がるインディアン居住地への移住を決心する。一家はそれまで住んでいたウィスコンシン州の大きな森から幌馬車で旅立つ(ちなみに連作の第1冊は『大きな森の小さな家』)。
『大草原の小さな家』から当時の衣生活が浮き彫りになることを期待して本書を読んだのだが、残念ながらローラの関心は、父さんの偉大な仕事ぶりであったようだ。丸太小屋作りや丸太小屋の鍵作りの描写は目を見張るほどリアルであるにもかかわらず、母さんの出番は非常に少ない………。
そこで、本講演では、Sally Ingrid Helvenston女史の博士論文“FEMININE RESPONSE TO A FRONTIER ENVIRONMENT AS REFLECTED IN THE CLOTHING OF KANSAS WOMEN: 1854-1895(Kansas State University Ph.D. 1985)”に基づき、同時期のカンザスへの移民女性の衣生活を紹介したいと思う。開拓時代、多くの移住者がカンザスの地を目指した。その意味で、『大草原の小さな家』に描かれることのなかったローラの母さんの仕事ぶりをたどることが可能だと思われるからである。問題の中心は、移民女性は厳しい生活環境の中で自給自足の生活を行いながら、どのような衣服観を抱き、どのような衣生活を営んでいたのかという点に置かれる。
ヘルベンストン女史の論文の情報源は、公的文書と個人的文書である。公的文書は例えば新聞や農業雑誌などである。個人的文書とは、手紙や日記、回顧録などである。第1章では歴史的背景の考察を通して、開拓女性たちはなぜカンザスに移住したのかについて、第2章では先行研究に対するヘルベンストン女史の論評を紹介する。問題視角は次のようである。
1. ハイ・ファッションのニュースはフロンティアの町にどの程度入ってきていたのか。
2. ファッション雑誌やパターン雑誌はフロンティアではどの程度読まれていたのか。
3. 市販の布地はフロンティアにおいてどの程度有効であったのか。
4. 家内の織物生産の実態はどうであったのか。
5. 衣服生産はどのように行なわれていたのか。
6. 既製服の市場化とファッションへの影響はどうであったのか。
7. フロンティアにおけるファッションの遅れはどうだったのか。
第3章では、ヘルベンストン女史が博士論文で用いた史料の種類と価値について考察する。第4章では、開拓女性の構成と価値観、移住に際しての衣服の準備、カンザスの気候と自然環境が衣服に及ぼした影響、カンザスにおける自給自足の生活実態(衣服素材の調達、衣服生産、コミュニティーにおける協力体制)、移民女性の仕事と仕事着の実態の順に結果と考察をまとめる。結論では、ヘルベンストン女史の見解を整理し、濱田の意見をまとめた。
ヘルベンストン女史の研究から、移民女性はみすぼらしい身なりをしているという固定観念は打破された。その内容については、本講演のお楽しみである。
参考文献
・濱田雅子著『アメリカ服飾社会史』(東京堂出版、2009)第6章
・Sally Ingrid Helvenston女史の博士論文“FEMININE RESPONSE TO A FRONTIER ENVIRONMENT AS REFLECTED IN THE CLOTHING OF KANSAS WOMEN: 1854-1895(Kansas State University Ph.D. 1985)
(文責 濱田雅子)
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